トレーニング

 ボクの場合、ロケに出て潜ったり撮影したりという日はまったく問題ないのだが、原稿書いたり企画書書いたり、その他の事務処理をしなくてはならない日が必ずひと月に10日間はある。それが連続した10日間だったりすると、完全に運動不足。しかも食べる量はロケなどでカラダを動かしている日と同じ。つまりかなりのカロリーオーバーとなってしまうのだ。
 以前からそのことに気づいていたし、10年前に比べ体重も増えたし、運動不足による肩こりや腰痛にも悩まされていた。ウオーキングや軽いランニングを続けたりしていたが、3ケ月ぐらい続けては脱落し、また思い起こして始めるのだが、やはり3ケ月ぐらいで脱落。この繰り返し。何か目標があればいいのだが、さすがにマラソンの大会やトライアスロンにまでは目標をかかげる勇気もない。
 
 ただ、この時期は運動会がある。特に娘たちが通う幼稚園の運動会では、プログラムの中に園児の父親たちによるクラス対抗の綱引きがあって、これが結構燃えるのだ。上の娘が3年間通い、下の娘が今年年中さんなので連続して5年間出場ということになる。しかし、この綱引きというのも、想像以上の瞬発的な力と持久力を必要とし、その日にいきなりやったりすると頭がクラクラしたり、調子悪くなったりする。おまけに筋肉痛で翌日動けなくなったりする。さらに負けようものなら、悔しさで一杯になる。だから毎年、この時期だけは運動会の1ケ月前から調整に入り、毎朝3kmほどのランニングを行なっている。
 走り終わって帰ってくると、なんでこんなにきついことやらなきゃいけないんだという怠けゴコロとの葛藤もある。けっしてカラダを動かすことが嫌いなわけでもないし、スポーツも好きな方である。でも、ひとりでチマチマと走るのは、ボク自身があまり好きではないことなのかもしれない。走って何が楽しいんだ。そんな自問自答が繰り返されるから3ケ月ぐらいしかもたないのだろう。
。  そんな気持ちを奮い立たせてくれたのは、先月放映された「君ならできる」という、あの金メダリスト・高橋尚子さんを育てた小出義雄監督の著書をもとにしたドラマ、そして昨日のベルリンマラソンでの高橋尚子さんの走りだ。ドラマの方はドラマ特有の脚色や演出が加わっていたと思うが、あのケロッとした高橋尚子さんの裏側に潜む成功までの苦悩と努力とがうまく描かれていた。彼女には精神的な部分の弱さがあるらしく、本番に弱いという一面。それを自信が克服していく部分などは、ボク自身も反省する要素が多々あった。さらに様々な困難をひとつずつ克服していったからこそ、シドニーオリンピックでの金メダルに輝けたという部分。それらをドラマで見ていたから、昨日のベルリンマラソンも多いに興味があったのだ。ふつうなら、金メダルを取った時点で目標を失い、自滅的にそれこそ第一線から退かざるを得ない状況になるはずだ。オリンピックが終わってから、しばらくの間ブラウン管に登場していた彼女は、顔も急に丸くなって出るたびごとに素人目にも第一線から退きそうな陰が見え隠れしていた。これで選手としては終わりなのかな? でも、日本初の女子マラソン金メダリストとして、そのステータスだけでも充分に生きていかれるのだろうな。失礼な話しだが、正直なところ、ボクはそう思っていた。
 ところが、昨日のベルリンマラソン。スタートからゴールまでしっかりと見てしまったのだが、「感動したっ!」と小泉流の雄たけびをあげたくなるほどであった。まるでF-1レーサーが周回をきっちりとラップタイムを刻むような正確さで各区間ラップを正確に刻み、世界記録を1分も上回る記録をあっさりと塗り替えて優勝。しかもあれだけの偉大な記録を出して42.195km走り終えても、ゴール直後に崩れることもないし、あれっ終わっちゃったの? ぐらいのケロッとした表情が印象的だった。とても偉業をなし得た人の苦悶に満ちた表情というイメージからはかけ離れていたことに驚かされたぐらいだ。精神的にも肉体的にもトレーニングを積めば、できないことはない。人間の可能性の無限性を見せてもらったような気がした。でも、彼女はもう人間を超越した神の域に突入した人なのかもしれない。
 いくら走るのが好きといったって、毎日毎日走りっぱなしでは飽きちゃうだろうし、もう明日は走りたくないなんて思わないのだろうか? きっと思わないんだろうなぁ。そう考えると、たかが3kmぐらいでヒーヒーハーハー言っている自分がとても恥ずかしくなる。また、運命とは実に面白いもので、今月の中旬、ボクに高橋尚子さんと小出義雄監督のお二人に会う機会が巡ってきた。ご本人たちに会うと、さらにボクも何か目覚めることがあるかもしれない。面白いことがあれば、またみなさんにご報告しましょう。

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