久々の海外・フィジー |
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パスポートを見てみる。「ふぅっ。3年前か…」。海外に出るのは、3年前にバリ島の棚田を撮影に行って以来のことだ。 日本国内の海を集中して取材するのが今までのボクのスタンスだった。海外の海ももちろん素晴らしいが、自分の身近な海を知らずして海を語るのは邪道のような気がしていたからだった。時間とお金があれば、その分を国内に回す。日本の海の素晴らしさを数々痛感してきた。そんなとき、ポンとフイジー行きの話が降って湧いた。フィジーは新婚旅行で10年前に訪れているが、前から再度行ってみたいと思っていた場所だった。しかも、今回はあまり情報の入っない北部の離島に行く話。フィジー政府観光局も大いなるバックアップを約束してくれていた。ボクは迷わず行くことを決心した。 行きは成田からおよそ10時間。さらに小型セスナで約1時間。サブサブ空港からクルマに揺られて30分。かなり田舎の方まで入った。一体どんなところなのだろう。ジャン・ミッシェル・クストー・フィジー・アイランド・リゾート。かの有名なフランスのクストー大佐の息子さんがオーナーということだけは知っていた。スクーバの生みの親・クストー氏の息子さんがやっているからには、かなり先鋭的な匂いも感じていた。 ところが着いてみて驚いた。近代的というのとはまったく正反対の、現地現地した雰囲気のリゾートだった。派手さは微塵も無く、落ち着いた感じにとても好感が持てたのだ。 さらにあちこちを探索してみる。情熱的な色をした花々がいたるところに咲き、背の高い椰子の木が丁寧にメンテナンスされて、しかもどこから見ても絵になるように配置されていた。こじんまりとしたプール、広々とした芝の庭、バナナの葉のような幅の広い葉が風に揺れて乾いた音をたてていた。ブレ(現地語で家という意味)という一軒一軒独立したコテージタイプの部屋。中に入ってみると、大きなベッドが部屋の中心にあり、布団カバーや枕には鮮やかな原色があしらわれていた。天井は高く、しかも椰子のかやぶき。壁は壁そのものがブラインドになっていて、横についているレバーを操作するだけで外気の遮断と取り込みが自由。まさに天然のエアコンだ。もちろんエアコンなど装備されていない。それでもそのブラインドで空気の流れをコントロールしてやると、実に快適そのもの。自然をいかにうまく利用するか、その答えが凝縮されているかのような感じがした。 そしてここの快適さをさらに助長したのは、現地スタッフの挨拶。「ブラッ!」これがこんにちわからこんばんわ、おはようございます、やぁをすべて含む挨拶。最初はボクも照れながら挨拶していたが、ニコニコと微笑みながら交わすこの挨拶がとても気に入った。こちらも大きな声で「ブラッ!」という。必ず相手も大きな声で返してくる。その挨拶が実に心地よかったのだ。 そして泊るときに最も気になる料理だが、とにかく美味しかったというのが印象だ。食事はプール脇に開放的にテーブルとイスとが配置されていた。特にデイナーになると、各テーブルの上、そしてプールサイドに転々とランプがともされ、ものすごくオシャレな、大人っぽい演出が施される。そこでディナーをいただく。現地風の料理なのだが、肉でも野菜でも素材の持ち味が活かされ、実に美味しいのだ。量ももう少し食べたいなァと思わされる程度に抑えられていて、それが食事の満足度を逆に大きなものに変えてくれることも初めて味わえた。素朴で、自然と向き合った生活とはなんぞやという解答を示されたようなものである。 また、この島でサカナを獲って暮らしている人に話を聞いてみると、今日食べる分しか獲らないという。たしかに恵まれた海がそばにあることもあるだろうが、自然との共存という意味でも、また欲を出さないという生き方の点でも、彼らの方が見てくれは後進的でも、実はボクたちよりもはるかに先進的な考え方であることがあらためて知らされた。偉大なる父を持つジャン・ミッシェル・クストー氏とはお会いできなかったが、おそらく彼もこの大自然と密着した理想的な自然と人間とが共存する姿に惚れこんで、ここにリゾートを建てることを考えたのかもしれない。 たまには海外から自分たちの住む日本を考えてみる。海外に出る楽しみと、もうひとつのボクの使命を感づかせてくれた今回の旅だったのだ。 |