人間ウイルスバスター・トヨ〜ダの雄たけび

 「あっこのメールなんか怪しい…。削除しよっと」
そんな軽い気持ちでそのメールを削除しようとした瞬間、ほんの0.5秒ぐらいの間に何かがダウンロードされた感触があった。
 「うわっ、ウイルスに感染したか?」
しかし、パソコンの画面には本文空白になったままのメールがあり、あとは何も変化がなかった。気のせいか? でも不思議なことに、ファイルが添付されていることをしめすクリップマークがない。添付ファイル付きだったはずなのに…。(本文空白、件名にReもしくはRe:xyzなどのようになっているのが怪しいメール。これらは絶対に開けないように。プレビューも不可だ)
 これが今回、ボクのパソコンがウイルスに感染した経緯である。ウイルスは、俗称「トロイの木馬」。この「トロイ〜」にはいくつもの種類があり、ボクのパソコンが感染したのは、正確にはWORM_BADTRANS.B。こいつはパソコンのメモリーやプログラム内部に侵入し、パソコンユーザーの意思とは関係なく自身のコピーをメールに添付して送信。ネットワーク上で自己増殖するのだ。パソコンユーザーには感染の実感がまったくなく、知らないうちに勝手にウイルスメールが送信される。OUTLOOKEXPRESSの送信トレイにも乗らないし、送信履歴も残さない。とんでもない野郎なのである。
 後でわかったことなのだが、ボクのパソコンでは、メールがプレビュー状態になっていて、削除しようとしてそのメールを選択した瞬間にメールが開封される。この瞬間に入りこむタイプのウイルス(専門家の間ではウイルスと区別してこいつをワームと呼ぶ。ファイルやシステムに感染して破壊活動はしないらしいが、それ自身が不正な動きをしたり、自己増殖したりする。こんな奴をミミズに例えてワームと呼ぶのだ)。
 感染したかもしれない。そんなもやもやした気持ちをはっきりさせようと、ネット上で診断できるウイルススキャンhttp://www.trendmicro.co.jp/hcall/scan.htmを実行した。結果は感染。ちょうど九州に撮影に出ていたこともあり、回線はつないでいない。そのままにしておけば、外部へウイルスメールを撒き散らす怖れはなかった。
 だが、ウイルス対策ソフトなどまったく導入していなかったから、なんとか自力でこのヘンチクリンなワーム野郎を駆除するしかなかった。ボクにプログラムの知識はまったくない。前述のウイルススキャンで調べた際に、このワーム野郎の活動情報の詳細を入手した。Kernel32。こいつがワーム野郎の正体だ。このファイルを検索すると、ウインドウズのシステムファイルの中に入りこんでいる。このままでは削除できない。パソコンをセーフモードで立ち上げ、ウインドウズに内蔵されているレジストリエディタという機能を駆使してKernel32と名のつくファイルを削除。さらにこいつが作り出したcp_25389.nls、kdll.dllというファイルも探し出して削除。しかし巧妙に潜りこむものである。
 削除したファイルは、ゴミ箱にたまっている。ゴミ箱を空にするという操作を行なってキーを押す瞬間、思わず「死にやがれっ!」と叫んでしまった。ジリジリジリッとハードディスクから消し去るときに音がして、まるでワームが焼かれてのたうち回っているような錯覚すら覚えてしまった。快感だった。
 さらにボクは対策を施した。まずウイルス対策ソフト「ノートンアンチウイルス2002」を導入。これはヨドバシなどで4800円ぐらいで売られている。さらに、OUTLOOKEXPRESSをプレビューしないように設定した。(メニューバーの表示→レイアウトを選び、プレビューウインドウを表示するのチェックボタンを外せばOK)まぁこれでしばらくは問題ないだろう。
 しかし今回のウイルス騒動で知ったのは、ウインドウズのプログラムの細分化と几帳面さ。これには恐れ入った。プログラムは細かく分けられて、それぞれの機能をになう個所に格納される。ちょうどきちんと整理された工場のようで、モンキーレンチは正面の棚の3段目の引き出しの右側にあるとか、プラス型ドライバーは左の棚の一番下の引き出しにあるといったように、作業がスピーディーに行なえるように機能的に配置されているのだ。これだけ几帳面に分類して配置したプログラマーは、いったいどんな奴なんだろう。ボクなんか、自慢すべきことではないが、仕事する部屋は書類であふれかえっている。でも、あの書類はこのへん、あの書類はあのへんと大まかに把握している。これがきちんと片付けられてしまうと、逆にどこにいったかわからなくなってしまう。そんなアバウトな人間だから、なおさらこのウインドウズの仕組みに感嘆してしまうのだ。
 それにしても、このワームのプログラムを作った奴、これだけ几帳面に整理整頓されているウインドウズのプログラムにどうやってワームを侵入させるのだろう? おまけにワーム自身も学習能力を持っていて、あいつのアドレスに送ると増殖できるという判断すらもできるらしい。こんなスゴイこと考えられるのなら、もっと違うことに頭や能力を使って欲しいものだ。

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