おやじの仕事

 2/26(月)の朝、NHKのニュース「おはよう日本」に出演した。とはいっても、生放送ではなく、1週間ほど前に収録したものを編集してオンエアされたもの。今回、講談社から出した「魚眼海中散歩 湘南・三浦・相模湾ダイビング」というミニ写真集の紹介と作者のインタビュー。
 およそ5分間流れ、なかなか見ごたえのあるものに仕上がっていた。たった5分間、されど5分間。今回担当していただいたNHKの飯島記者は、撮影現場でも何度もボクに細かい部分の確認を取り、編集前にも電話で確認があった。ボクのメッセージを正確に伝えようとする努力は、たった5分間の映像かもしれないが、その中に凝縮されていたように思えた。もちろん天下のNHKさんに今回の本を紹介していただけたということも嬉しかったが、何物にも替えられない喜びは自分の子供たちに自分の仕事風景を見せられたことだった。
「お父さん、あんなふうに海の中でバタバタ泳いでいるんだぁ」「え〜っ!あんな怖い顔して海の中でおサカナの写真撮ってるんだね、なんか喧嘩してるみたい」「海の中にお花畑みたいなところがあるんだねぇ」4歳と7歳のどちらも娘だが、それぞれの感性に何か響くものがあったようだ。
 ふと自分のことを思い出してみる。ボクの父親は読売新聞の記者をしていた。母親は、出版社・主婦の友社で雑誌の編集をし、編集長も経験していた。そんな家庭環境だったから、遠回りしながらもボクがこの道に進んだのは必然といえば必然だったのかもしれない。でも、昔からボクは絶対にマスコミ関係の仕事は絶対にするまいと心の奥底で思っていた。それは両親を見れば明らかだったのだが、時間は不規則だし、ストレスも多いようで口論は日常茶飯事。休みもあるのだかないのだかわからない。不満だらけの毎日で、何が面白くてこんな仕事しているのだろうという目で見ていたからだった。もちろん、自分の目で両親がそれぞれの場所でしている仕事の場面など見たこともなかった。
 だから、ボクは自分がつまらない思いをしてまで仕事はしたくないと思っていた。楽しいことがそのまま生活の糧にできれば、それは最高である。すごく短絡的な考え方だが、自分はその道を切り開こうと望んだ。しかしその道は険しかった。楽しいことではなかなか食って行かれないのだ。楽しいことをしながら、それを生活の糧に結びつける。ボクの場合、それはやはりマスコミ関係に自分の撮った写真や映像発表し、原稿を書いて本にしたりする以外に方向は見出せなかった。今でも、正直な話、生活はキチキチ。こんなに目一杯仕事しているのに、一向に生活の余裕は生まれない。もちろんボクの休みはないし、ましてや家族サービスが満足にできるような状態でもない。朝は毎朝4時半に起きて原稿書いたりしているし、各地へロケに飛ぶことも多い。娘の友達の家族は一家でハワイ旅行なんて話をしているなか、カミさんや子供たちにいつも詫びながら仕事している。しかし、ボクの仕事はダイビングや釣りの現場。カミさんはある程度理解してくれているとはいえ、ボクが遊びに行っているようなつもりで見ていることは否めない。もちろん、子供たちは声にはしていないものの、自分の父親は遊んでいると思っているのかもしれない。近所の人たちだって、「この人何やってるのかしら?、よく遊び道具洗っているみたいだけど……」なんて目で見ていたかもしれない。まぁどのように見られようとも関係ないのだが……。
 そんな状況下で、ボクがどんなことをやっているかというのを少なくとも自分の子供たちにはしっかりと見せられた。それは、どんなに巧に言葉で説明しようとしてもできないほどの説明をビジュアルはいとも簡単に成し遂げてくれたのだ。この力は絶大である。おやじの仕事する姿を見せることができた、そんな小さな満足感がポワンと広がりながら全身にしみこんでいくのを感じとれた朝だった。

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