おそろしい決断(長崎県・五島列島まで1500kmの陸路行)
   

釣り師のハリにかかったクロダイを撮影。ふだんは自然保護派にいる自分が、このときは海のハンターに転身。ジキルとハイドのような二面性、そして保護と殺戮という矛盾。そのはざまで悩みながら撮影する。それもボクのやるべき仕事のひとつなのだ。
 つい先日、どう考えてもかなりムチャクチャなことをやってしまった。それは、横浜から長崎県・五島列島は福江島までクルマで走ったこと。
 羽田から飛行機で行けば、福岡か長崎で乗り換え、福江島までは半日強あれば着いてしまう。それをワザワザ横浜からクルマで行ったのには、それなりにワケがあった。実はこの福江島にはクロダイの水中撮影のためだった。クロダイは関東の海にもいるが、九州の魚影の濃さといったら半端ではない。関東の10倍、いやそれ以上の数が棲息している。また、4月中旬から5月中旬ぐらいは釣り用語で「乗っ込み」と言って、産卵のために超浅場に集る。それを狙って釣り師が釣る。それをボクが水中から撮影する。今回の福江島行きには、そんな構図があったのだ。
 しかし、福江島では、潜水用ボンベの手配がややっこしい。確かに島内にも潜水業者がいるが、現場からも遠い。おまけに飛行機で行っても、レンタカーを借りたり、機材を宅急便で送ったりといろいろ大変。それならいっそのこと、こっちからすべての荷物を積んで、クルマで走って行こうという話になった。使う道具がすべて一緒に移動していれば、もしも悪天候の場合でも、他の代替場所も臨機応変に考えられる。今回のメンバーは、釣り師の大塚仁人氏と高木道郎氏、そしてボクの3名。木氏はクルマの免許を持っていないから、ボクと大塚氏の2名で交代交代で行く。ルートは簡単。東名、名神、山陽道で進み、九州へ入ってからは博多で降りて、そこからカーフェリーで福江島まで。

 出発の朝、6時に神奈川県・大和に集合。荷物を積みこみ、6時30分に出発。それからおよそ1200kmの走破が待っていた。荷台ではボンベがとにかく場所をとるうえ、重量がかさむ。ハンドルがとられる。両腕に力をこめ、ハンドル操作。後に筋肉痛が発生するほどのハンドルワーク。何度か休憩を入れながら、とにかく走り続けた。フェリーの出港が午前0時。クルマの搭載が22時。ちょうど神戸あたりが中間地点。そして関門大橋を渡るとき、なにかホッと
五島列島・福江島南側にある巨大な入り江の玉之浦。海は湖のように静まり返り、静寂な朝を迎えた。ここには想像を絶するほどのクロダイが棲息。クロダイ釣り師のパラダイスなのである。
するような安堵感と感激があった。およそ14時間。  20時には博多港に到着。天神周辺でラーメンをすすり、乗船。翌朝9時には福江島に到着だ。フェリーは予想外にゴージャスで、快適。グッスリと眠れた。
 福江島に到着と同時に、地元の釣具店でエサを購入。そして福江でも最高に旨いというチャンポンを食べて、さらに島の南側の玉之浦まで走った。着くと同時に、渡船に荷物を積みこんで渡礁。釣り師役は釣りを、ボクは潜水器材を装着して海の中で待機。もういきなり釣れ始めて撮影開始。それを5日間(中1日は大雨のため休み)こなし、帰りは長崎までフェリーで渡り、そこから走り続けた。帰りはおよそ1500km。気の遠くなるような話だ。しかし、時間かけて旅するというのも時代錯誤しているようだが、いろいろな景色を見たり、考えたり。何かとてもかけがえのないものを得られた旅であることに気がつかされた旅だった。

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